第1回 任された日に、まず何を見るか

できるようになること:引き継いだインプラントで、毎回何を見て、何を書くかが分かる
今日やるのは、測ることではなく測る前の準備です。

引き継いだ日

衛生士
先生、インプラントの患者さん、次回からわたしが受け持つことになりました。
藤中先生
ええ、お願いします。
衛生士
今までも何人か見てはきたんです。ただ、インプラントについてきちんと習ったことがなくて。天然歯と同じように測って、同じように磨いてもらって。それでいいのか、確かめたことがないんです。
藤中先生
次回は、どう進める予定ですか。
衛生士
いつも通り、6点でポケットを測って、出血を記録して、前回と比べようと思っています。
藤中先生
そこに、もうひとつ足してもらいたいものがあります。インプラントの周りが悪くなっているかどうかは、出血・ポケット・骨の3つで見ることになっているんです。

骨は、割合で見る

衛生士
骨は、レントゲンで見るんですね。
藤中先生
ええ。ただ「何ミリ減った」では見ません。インプラント全長の、何割まで減ったかで見ます。2012年に2人の先生が出した、短い提案に載っている見方です。
衛生士
割合で見るんですか。
藤中先生
同じ2mmでも、8mmのインプラントと13mmのインプラントでは意味が違うからです。レントゲンのどこからどこまでを測るか、なぜ割合なのかは、第5回でまとめて見ます。今日は「骨は割合で書く」とだけ決めておいてください。

重症度の3段階

その提案が、3つの所見をこう組み合わせています。

出血か膿プロービングの深さ骨が減った割合
初期あり4mm以上25%未満
中等度あり6mm以上25〜50%
重度あり8mm以上50%超

重症度の名前は、原著では early / moderate / advanced です。ここでは初期・中等度・重度と訳しています。

原著は「プロービングの深さ」と書いています。インプラントの周りには天然歯のような付着が無いので、

厳密には「ポケット」とは呼びにくいためです。日々の会話では「ポケット」で差し支えありません。

この表には脚注が2つ付いています。ここが大事なので、一緒に読んでおきます。

近心・遠心・頬側・舌側のうち、2つ以上の面で見つかっていること、という意味です

それが無ければ、装着後でいちばん古い1枚を使う

出血が無ければ、この表は使わない

衛生士
表を見ると、どの重症度も「出血あり」ですね。
藤中先生
ええ。出血が無ければ、そもそもこの表は使いません。
衛生士
出血はあるけど、骨は減っていない場合はどうなりますか。
藤中先生
それは周囲粘膜炎です。骨が減る前の、粘膜だけが腫れている状態です。この表の対象ではありません。そこは第3回でくわしく見ます。

比べる元のレントゲンが要る

衛生士
2つめの脚注の、装着したころのレントゲン……カルテにあるでしょうか。
藤中先生
まずそこを確かめてもらえると助かります。今日いちばん大事なのは、そこだと思います。
衛生士
無かったら、どうしますか。
藤中先生
次の来院で、レントゲンを撮ります。それが基準の1枚になります。自分のためというより、次に見る人のために撮っておく感じかと思います。

重症度の名前だけを、書かない

衛生士
3つを見て重症度が分かったら、カルテには「初期」と書けばいいですか。
藤中先生
その言葉だけを書くのは、やめておいたほうがいいと思います。
衛生士
せっかく重症度が分かったのに、ですか。
藤中先生
「初期」という名前からは、元の数字に戻れないんです。「初期」と書いてあっても、ポケットが4mmだったのか5mmだったのかは分かりません。骨が何割だったかも分かりません。数字があれば重症度はいつでも決められますが、重症度から数字は戻せません。
衛生士
……たしかに、名前だけでは困りますね。
藤中先生
それと、もうひとつ理由があります。この分類には、決められていない部分があります。
衛生士
決められていない、というのはどういうことですか。
藤中先生
ポケットと骨吸収が食い違ったとき、どちらで重症度を決めるかは、この分類がまだ決めていないところです。実際この論文に載っている症例のひとつは、プロービングが8mm——表では「重度」になる——なのに、本文では中等度として扱われています。
衛生士
じゃあ、同じ所見でも人によって重症度が変わるかもしれないんですね。
藤中先生
そうです。だから重症度の名前ではなく、3つの数字を書きます。

次回までに、やること

今日は、何を書くかを決めるところまで。

次回は、インプラントのポケットをどう測るか
この論文には、プローブの種類も、待つ秒数も、かける力も書いてあります。

出典

Froum SJ, Rosen PS. A Proposed Classification for Peri-Implantitis.

Int J Periodontics Restorative Dent 2012;32(5):533–540.

分類の提案です。新しく患者さんを調べた研究ではありません。

最終更新:2026-09-20